プレスリリース 2005/4/21
北海道大学の圦本尚義教授と米国の共同研究者は,隕石の精密分析により46億年前のできたばかりの太陽系の年代学を初めて明らかにした。この成果は2005年4月21日発行の英国科学雑誌「NATURE」に掲載される。
コンドリュールを内部に含んだ白色包有物が証す太陽系形成初期「微粒子の時代」の年代学
Chronology of the early Solar System from chondrule-bearing calcium-aluminium-rich inclusions
Alexander N. Krot, Hisayoshi Yurimoto, Ian D. Hutcheon & Glenn J. MacPherson
現在の太陽系は,太陽の周りを惑星が回っているいわゆる惑星の時代である。現在の惑星は,もっと小さな惑星が集まってできた。この惑星成長の年代学は,例えば,井田茂(東工大)や小久保英一郎(国立天文台)により詳しく研究されている。惑星の先祖を辿ると微惑星というものにたどり着き,これは太陽の周りを取り囲んでいた塵の円盤の塵が突然くっついてできた最初の小さな惑星と考えられている。惑星の時代の前は微粒子の時代だったわけである。この惑星ができるまでの微粒子の時代の年代学は最近までほとんど理解されていなかった。
地球に落下する隕石の大部分はコンドライトと呼ばれる隕石である。コンドライトの構成要素はコンドリュールや白色包有物と呼ばれる微粒子である。圦本のグループは太陽系が始まったばかり段階である微粒子の時代の解明をめざして研究を続けてきた。その結果,粒子の大部分は現在よりはるかに活発に活動していた原始太陽の近くで高温作用により形成されたこと(Nature誌2003年),塵は酸素同位体比が異なる円盤ガスと共存し(Science誌1998年),その酸素同位体組成が時代と共に変化していったこと(Science誌2004年;倉本圭(北大)との共同研究),この高温作用を免れた星間物質が少しだけ隕石中に生き残っていること(Nature誌2004年)等を明らかにしてきた。これらの研究は,我々が独自に開発した同位体顕微鏡という世界に類をみない最先端分析装置により得られてきたものである。
今回のものもこの同位体顕微鏡による成果の一つである。今回,我々は,世界で最も有名な隕石であるアエンデ隕石中からコンドリュールを内包した白色包有物を発見した。これまでコンドリュールと白色包有物は初期太陽系の別の場所で別の時代の高温作用により形成されたというのが通説であった。今回発見された複合物体はこれらの形成場所が一部重なっており同時に起こっていたことを示している。コンドリュールと白色包有物を作った高温作用は同種のものであることを示唆するのである。我々は同位体顕微鏡によりこの複合物体の酸素同位体測定と年代測定を試みた。その結果,この複合物体が形成されるまで200万年以上の年月を要し,その間に原始太陽系星雲の酸素同位体比が全く変わってしまったことが明らかになった。この酸素同位体比の変化とその時間差は,圦本・倉本の原始惑星円盤進化モデル(Science誌2004)と大変調和的である。この研究により,微粒子の時代は数百万年間続き,その間頻繁に鉱物を蒸発・溶融するような高温現象が活発に起きていたことが初めて実証された。このような極めて暴力的な現象は現在のような惑星の時代ではみられず,太陽系極初期の粒子の時代に特徴的なものである。
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