プレスリリース 2004/9/17
宇宙の氷が僕らのふるさと
-地球の酸素の起源は宇宙で出来た氷であることを示す-
解禁時刻: 2004/9/17 午前3時(9/17 の朝刊以降)
東京工業大学の圦本尚義助教授と北海道大学大学の倉本圭助教授は,我々の太陽系を含む惑星系の新しい形成進化理論を発表した。この成果は2004年9月17日発行の米国科学雑誌SCIENCEに掲載されます。
従来の惑星系形成理論では力学的な点に重点が置かれ、化学物質の進化について無視されていました。今回の新理論では宇宙空間にまばらに散らばっている原子・分子から惑星系への物質の進化を取り扱っています。新理論によると地球の酸素の起源は宇宙でできた氷が主ということになります。
太陽系のような惑星系ができる出発点は、宇宙空間の希薄なガス(原子・分子)と塵です。これらが集まって分子雲とか暗黒星雲と呼ぶ天体が作られます。分子雲と言う呼び名は、集まったガスの成分に水素分子が多くあるから、暗黒星雲という呼び名は、集まった塵により背後にある恒星の光が遮られるからつけられました。希薄なガスの成分は多い順から水素、ヘリウム、一酸化炭素の順です。分子雲には周囲から紫外線や宇宙線が降り注ぎます。そのため一酸化炭素ガスは炭素原子と酸素原子に分解されます。できた酸素原子は塵の表面で水素原子と結合し氷に変わります。こうしてできた氷を造る酸素の重さは一酸化炭素ガスの酸素よりわずかに重いことを憶えておいてください(酸素には質量数16, 17, 18の3種類の同位体がある。酸素の質量(原子量)はこれら3つの同位体存在比で決定される。つまり,酸素の中で質量数16の同位体の量が多いと軽くなり,逆に少ないと重くなる)。この分子雲の一部はさらに縮んでいき、その中心にはこれらのガス、氷、塵により太陽の卵(原始星)が造られ、輝き始めます。同時に原始星の周りにもこれらのガス、氷、塵からできた円盤(原始惑星系円盤)ができます。この円盤から惑星が生まれるのです。円盤の大部分の温度は冷たく氷は蒸発できません(宇宙では水は安定ではなく、温度が高くなると氷は直接水蒸気になります)。円盤中のガス・氷・塵は原始星の周りを回転しながらだんだんと原始星に落下して、原始星を成長させます。この落下の途中で氷は蒸発し水蒸気になります。原始星に近づくにつれ円盤が少しずつ暖かくなるからです。この氷が蒸発する場所はスノーラインと呼ばれ、太陽系では木星軌道付近だと考えられています。
太陽に向かい円盤中を落下する速度は、ガスと塵・氷では少し違います。塵・氷の方が速く太陽に落下していくのです。そのため、氷はスノーラインまでは速く円盤中を原始星方向に移動していきますが、スノーラインを超えると水蒸気になるため、ブレーキがかかり、水成分の落下速度が急に遅くなります。したがって、スノーラインの内側領域で水蒸気濃度が高くなっていきます。地球はスノーラインの内側で生まれました。だから地球の酸素は宇宙起源の氷からやってきているはずです。ここで、宇宙の氷は重い酸素からできていると言うことを思い出してください。実は、隕石や惑星の研究から太陽系には重い酸素と軽い酸素の貯蔵庫があったことが判っています。地球は重い酸素からできているのです。この酸素貯蔵庫の発見以来現在まで、それらがどこにどうしてでき、そして、どうして地球の酸素が重いのか、約30年間ずっと謎のまま科学者を悩ませてきました。新理論はこの謎に解答を与えたのです。
今回の研究により、太陽系の化学組成が太陽系を産んだ分子雲時代の現象を強く受け継いでいることが明らかになりました。つまり私たちの系図を遡ると太陽系を超え銀河へと途切れることなくつながっていくのです。同時に、太陽系で見つかる化学的特徴は、宇宙で特別なものではないことも判りました。私たちの理論は、宇宙のどの惑星もその中心にある太陽と酸素の重さが違うことを予言します。この予言は9月8日に帰ってきた米航空宇宙局(NASA)の探査機ジェネシスのカプセルの中に収まっている太陽風の粒子により検証されるでしょう。そして、2006年2007年に相次いで帰る惑星探査機(米国のスターダスト、日本のはやぶさ)によりさらに詳しく解明されるでしょう。さらに、新しい顕微鏡による隕石の超精密分析や新しい望遠鏡による惑星系誕生現場の直接観測により発展していくことを楽しみにしています。
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東京工業大学 大学院理工学研究科地球惑星科学専攻
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